ゴールデンエイジ
少年期は、神経系の発達が著しく、5〜6歳で成熟期のほぼ80%、12歳ではほぼ100%に達してしまいます。 そして張り巡らされた神経経路はなかなか消えないという特徴を持っています。「1度自転車に乗れるようになったら何年間も乗っていなくてもすぐにまた乗れる」 「子供の頃覚えた遊び(コマやあやとり等)は大人になっても忘れない」のはそのためです。 このさまざまな神経回路が形成されていく大切な時期のうち、特に9歳〜12歳頃の年代は 「ゴールデンエイジ」と呼ばれ、サッカー以外のスポーツでも重要視されています。

以下は小野剛氏著「クリエイティブ・サッカー・コーチング」に掲載されている文章の抜粋です。 指導者向けの文献ですが、保護者の方も是非一読してみて下さい。

ゴールデンエイジとは?

 ドイツの運動学者マイネルは、特定スポーツの技能の習得を適切な時期に始めることを「時期を得た専門化」と呼び、それは9〜12歳頃であると述べています。それはその年代がスポーツの技術を習得するのにもっとも適した時期であり、他のどの年代にも見られない「即座の習得」の可能な時期とされているからです。即座の習得とは、新しい運動を何度か見ただけで、そぐにその運動をおおざっぱながらこなしてしまう能力のことです。サッカーの世界でも、その時期を「ゴールデンエイジ」と呼び、非常に大切にしています。そしてそれ以前の年代を「プレ・ゴールデンエイジ」、それ以降の年代を「ポスト・ゴールデンエイジ」と呼びます。

プレ・ゴールデンエイジの指導(幼児から小学校低学年)

 前出のマイネルによると、「即座の習得」はすべての子どもに当てはまるものではなく、明確な前提条件が必要であるとされています。すなわち、幼児から低学年までの間に豊富な運動経験を持ち、見た運動に共感する能力がすでによく発達している場合に限られるのです。その前提条件を神経系の発達から見てみると、運動に関わる部分で言えば、さまざまな動きの一つ一つが新たな神経配線をつないでいくということです。すなわち、ゴールデンエイジに入った時点でさまざまな動きを構成する神経配線がめぐらされており、新しい運動を見たときにそれと似た運動の回路が存在するというのが、先に述べた即座の習得の前提となるのです。

 運動学の分野では、幼児から低学年に至る年代の運動系をいくつかの特徴でとらえています。まずは、どのような運動でも必要以上の力が入ってしまったり、必要のない動きまで伴ってしまったりといった「過剰動作」とか「随伴動作」と呼ばれるものです。ですがこのような「無駄な動き」も、当の子どもにとっては失敗でもなければエネルギーの無駄使いでもないのです。
 また、明確な最終目標のないのも特徴の一つです。そのため、子どもの注意は常に新しいものへと向けられ、たとえ最終目標にたどり着いたとしてもその過程にはさまざまな「寄り道」が挿入されているのです。

 しかし、これらの「無駄な動き」や「寄り道」によって子どもはいろいろな運動を同時に経験し、さまざまな神経回路を形成していくことができるのです。よくこの年代の子どもは集中力がないと言われますが、それは誤りで、ひとたび何かに集中すると名前を呼んでも気がつかないほどの集中力を持っているのです。ただ、先に述べたように次々に新しいものに興味が向けられるために、それが長続きしないだけなのです。また、集中力が長続きしないのはこの年代のこどもの欠点ではなく、将来の成長のために生まれつき備わっている機能と考えられるのです。

<指導のポイント>

1.多面的な基礎づくり
 長続きしないが高い集中力を持っている特長を生かすには、豊富な遊びのメニューを持っていることが役に立つはずです。その中に様々な動きが含まれていれば必ず後の財産になるものを形成させてあげることができます。
 この年代の子どもたちには、サッカーの練習の他にも手でボールを扱うゲームや、時にはボール無しでのゲームなども取り入れ、さまざまな動きを経験させ、体を動かす楽しみを知ってもらうとよいでしょう。また、ピッチのサイズやチームの人数などをうまくアレンジしながら、ゲームを通してサッカーを楽しませていくとよいでしょう。子どもたちはさまざまな技術にトライしようとしますが、この年代の子どもはおおざっぱなのが本来の姿であり、一つのことを完璧にマスターさせようと細かいことを指摘しすぎてせっかくの運動経過全体をこわしてしまうことのないようにしなくてはなりません。

2.「もっとやりたい」
 また、子どもの活動欲求も高くなってきますが、「もっとやりたい」というところで終わることが、次の練習への大きな動機付けとなるはずです。「サッカーが好きで好きでたまらない。もっともっとうまくなりたい」という気持ちでゴールデンエイジに入っていけたなら、その子どもにとってサッカーの上達にこれほど有利なことはなく、この年代の指導としては大成功と言うべきでしょう。

ゴールデンエイジの指導(小学校高学年)

この年代の子どもに特徴的なのは、新しい運動経過をすばやく把握して習得することや、
多様な条件に対してうまく適応する運動系の能力で、「即座の習得」と呼ばれるものです。この年齢における運動系の学習は、大人の学習過程とは大きく異なり、運動を理性でとらえて分析しながら行うというものではありません。すなわち、子どもは見た運動にただちに共感を持ち運動経過を全体として遂行していく、すなわち学習過程の普通の手順を飛び越してしまうのです。これは、小さな子どもが言葉を習得するのに文法を必要としないのに似ています。そのため、子どもは特別な指導がなくても新しい運動を2〜3回見ただけで、あるいは1回やっただけで、荒削りではあるがその運動をやりこなしてしまうのです。

 この年代の子どもはどんな技術でも驚くほど早く吸収する能力を持っており、どのような技術でもスピードやプレッシャーのともなわない状況なら完璧に行うことが可能となるはずです。しかしながら、多くの子供達にとって、この運動系の発達に大切な歳月はほとんど活用されないまま過ぎ去ってしまうことも多く、ここで逃したものは後で再び取り戻すのは非常に難しいのです。「ゴールデンエイジを大切に」というのは、長期的視野でサッカー選手を育てていくうえで大きなポイントの一つであると思います。

<指導のポイント>

1. よい見本を見せること
 この年代の子どもは模倣の能力に優れており、良いプレーを多く見せることが非常に重要となります。また、反復練習が効果的になってきます。
 しかし、技術練習を行うときにもゲームの中でその必要性、すなわち「それができればこんなに得するよ」ということを理解させてから行うことによって、より高いモティベーションで練習することができるでしょう。この年代の子どもは速筋線維が未発達なので、強さよりも正確性を強調すべきです。

2. サッカーの中で技術の習得を
 技術それ自体は単なる道具であり、いい判断が伴ってはじめて生きてきます。よい判断をすること、そのためのよい体の向き、視野の確保などの基本的なこともこの年代から身につけて行くべきです。したがって、できる限りゲーム(スモールサイドゲーム)の中で技術を身につけていくとよいでしょう。また、実際の試合を観戦させ、全体像としてサッカーを理解させることが効果的です。

3. 内発的動機付けを大切に
 子どもに対しては、誉めることが最高の動機付けになり、プレーを上達させる源になります。特にこの時期、罰で子どもを動かすことは最も慎むべきことです。また、子どもの「認めてもらいたい」という欲求は想像以上に大きなものです。どんな会話でも一人一人に声を掛けてあげることが、子どもにとってどれほどうれしく、やる気を起こさせることなのか、理解してあげてください。